バトル、感謝、チアノーゼ、完走。

 レース前にしてはよく眠れました。四時半起きして、レースの支度をします。朝ごはんは木曜日のうちにつくっておいた笹まき。
 まだまだねていた子供達を五時にはたたきおこして、五時45分に宿をでました。きれいな朝焼けです。

 最終受付が六時半なので、大会会場の近くでおろしてもらって、一人でレース会場に向かいます。風はほとんどありません。
案の定、Aタイプのスイムが3.8から2キロに短縮されて、Aタイプのスタートが20分遅れになったほかは、変更なしで大会は行われるとの発表でした。もう、腹をくくってスタートするしかありません。
 トランジッションエリアにバイクと用具類を置いたら、最終受付、ボディマーキング、入水チェックです。そうこうしているうちにAの人たちはスタートしたようです。
 入水チェックのとき、子供たちとバウアをみつけられました。手作りの横断幕をかかげてくれています。ありがとう。
 それにしても人が多い。リレータイプとあわせて700人以上くらいがいっせいスタートなんです。恐ろしい。
 恐ろしいといっている割には、一番バトルのはげしいコースロープ沿いのしかも結構前の位置に陣取ってのスタート。
 プールでは2キロ40分かからない私ですが、海ではどれだけで泳げるのか、全くわかりません。あんまりがんばりすぎないでいこうと決めていました。
 7時、スタート。
 遠浅なので、しばらくは走っていきます。泳ぎ始めても人は多いまま。あまりにごちゃごちゃなので、しばーらくヘッドアップスイムでしのぎました。スイムのバトルはずうっとつづきます。遠慮なんかしてたら、上に乗っかってこられちゃいそうになるので、ここで私の闘争本能に火がつきました。「まけない、ゆずんない!」 
 足に触られれば、思いっきりばたあし。それでも触られれば、平泳ぎに変えました〔笑〕
第一ブイを過ぎてもバトルの状況は変わんなかったですね。バトルでごちゃごちゃ、沖にきたら少し波もあって、それにも戦いを挑んでる感じで、もう夢中です。自分が速く泳げているのかどうかも、全然わからないです。
ただ、いえることは、さんざんがんばって練習してきたヘッドアップスイムはほとんど意味がなかったみたい。ずっと二回に一回の呼吸で、コースロープを確認しながら泳ぎます。右でばかり呼吸するので、右の首の後ろのほうがウェットスーツにすれて痛くなってきました。塩水がしみます〔泣〕
 スイム終了。手元の時計では43分で泳いでます。
 トランジットにいったら、まだまだバイクがたくさんあったので、スイムは早いほうだったようです。
カーボショッツをワンショット、補給。靴下、シューズ、サングラス、ヘルメットを着用してバイクパートです。
 バイクパートに入ってすぐに、「お母さん、がんばれー」の声。「いってきまーす」

これが唯一のレース中の私の写真。ほんとこれしかないの!

 少ししたら、救急車が追い越していきました。だれかにトラブルが起こったようです。
大会直前の一ヶ月で100キロと乗れなかったバイク。一番苦手なバイクパート。走りきれないことはないでしょうが、どれだけの時間がかかるのでしょう?とすごく不安だったのに。すごく速い。自分でもびっくり!
平均時速で25キロ、出せなかった私が、27,8出せてる!
大江の大会のやまめの学校で、アドバイスしていただいたのがきいているのでしょうか?楽に速く走れてます。
 佐渡の大会は島挙げてのお祭りなんですね。ギャラリーがいないところがないくらい、地元の方の応援があります。家の前で椅子やござを出して、おじいちゃん、おばあちゃん、こどもたち、とにかくたくさんの人が応援してくれます。ほんとにありがたい。この大会に限らないのですが、「がんばれー」とかの応援に、「はい」とか「ありがとうございます」とか返事をしていきます。あんまりそんなこと言っていく選手がいないので、なんか恥ずかしくて小さい声でしか返せませんでしたが、本当にそれらの声援がうれしくて、ありがたくて、大きな声で返すようになりました。今日だけで何十回の何百回の「ありがとう」を言ったことでしょう。
 「がんばれ」の言葉が力をくれて、「ありがとう」というたびに、自分が浄化されていくような気がします。
なんか、実は「私、トライアスロンやっていて、ちょっとすごいんだぁ」といったような傲慢な気持ちが消えていきます。
 心拍はほぼ170キープくらいでとても苦しいはずなのに、苦しさを感じなくて、こうやって思いっきり走れているが、ほんとうに有り難くて、しあわせなことで…こうやって応援してくれてる人や、たくさんのレースを運営してくれてる人たちや、ずっと支えてくれたバウアや、いつも力をくれる子供たちや、宿をとって宿代をだしてくれたバウアの両親、自転車の練習をつけてくれた武田さん、体のメンテナンスをしてくれているK先生、応援してくれている方々、丈夫な体をくれた両親、本当にたくさんの人の愛に恵まれて、はじめてこの場をはしれているんだということがうれしかった。
 トライアスロンは一人でやる競技だけれども、じつは一人では何もできないんだね。
 とってもつらいのに、すっごくしあわせ。そんな不思議な感覚でした。〔それってただのどMってこと?〕
 カーボショッツを45分おき位に確実に補給していきます。エイドでもなるべくバナナとかおにぎりとか、バイクのうちにとっておかないとランでは食べれません。
 76キロ地点からの小木の坂が、Bタイプ最大の難関です。標高差140メートルを登っていきます。ギャラリーも多いです。途中で押してる選手もけっこういますが、自称ヒルクライマーの私は快調にダンシングで登りはじめました。それにしても、きつい。心拍は190にもなろうかと…そのうち唇が冷たくなって、ぶるぶる震えてきました。なんか頭も痛いような?
自分では見えないので、わかりませんが、きっとチアノーゼ。酸欠なのでしょう。ペースはどんどんおちていきます。初めて無酸素領域でがんばっちゃったらしいです。
なんとか小木の坂は上りきりましたが、ぴたっと体が動かなくなってしまいました。
 もう、平地でも25キロもだせません。どんどんどんどんぬかれていきます。ラストの25キロはほんとに我慢でした。スピードはだせない、体のあちこちが痛くなっていきます。こんなんでラン、走れんのかなぁ?
 それでもなんとかトランジッションまでたどり着きました。手元の時計で12時くらい。4時間17分くらいかかったことになるんでしょうか?
 まずは補給。シューズを履き替えて、トイレも済ませて、ランへ。
 走り始めて、あっわたし、走れる!
自分のペースで淡々と走ろう、そう決めてました。
やまめの校長先生に腕は横振りがいいよ、と教えていただいたので、さっそく試してみます。おっいい感じ。楽に速く走れます。上半身も疲れたりしません。
でも、さすがに最終種目だけあって、いろんなところが痛くなってきます。まずは股関節。右のふくらはぎ、膝、足首。やばいなぁと思いながら走りますが、幸い傷みが次々うつっていく感じなので、なんとかはしれています。
エイドの度に確実に水分を入れていきます。それから30分おきにショッツを。おかげでハンガーノックとは無縁でいられて、腹もいたくなりませんでした。
 それからしっかり酸素を取り込むためにも、大きな声で「ありがとうございます」の連続ですね。どんなにつらくても感謝の気持ちを伝える余裕は残しておきたいものです。
 抜かされることが多いですが、とにかくマイペース。折り返しをすぎると歩いている選手や道端に吐いている選手もけっこうみかけました、うっ。
 「あと2キロだよ」の声にとにかく全部出し切ろう、とペースをあげる気持ちでがんばりました。恐らく実際にはペースはあげられなかったのだろうけど、気持ちの上だけではラストスパート。
 もうゴールが見えてきた。自然に泣いていました。「ありがとう」の声も泣き声で…
当然ゴール手前の同伴者エリアにバウアたちの姿はなくて、ちょっと残念。
 それでも両手をあげて、ゴール。メダルをかけてもらって、スタッフの人の「7時間1分ですね」の声に振り返って時計をみて、びっくり。私、こんなに速く走れたんだ!
大江では逆の意味でやっちゃった私ですが、佐渡ではやっちゃいました。無欲の奇跡的記録。
 果物やおにぎりをたんまりいただいてから、トランジッションエリアに自転車を取りに行って、バウアに電話します。「もうゴールしたの?」とびっくりしているバウアの声。そりゃそうです。目標タイムの30分も前にゴールしたんですから…
今、メイン会場に向かっているけど、とにかく渋滞していてどのくらいでつけるかわからないとのことで、私も自転車でバウアたちのいる方向に向かうことにしました。
なんとか行き会いまして、7時間ぶり位の再開。感動に浸る間もなく、予約してたフェリーより一本前のにのれそうだということで、超特急で温泉で汗を流し、フェリー乗り場に急ぎます。お土産買う暇なし。昨日開会式会場で少し買っといて、ほんとよかった。出航時刻の15分前に着きまして、無事に帰れそうです。行きのフェリーと違って、あまりお客さんはいませんね。Aタイプの人たちはまだまだ走っているはずですから、ここいるトライアスリートはBタイプかRタイプのひとですね。
 そういえば途中寄った温泉であった人に、レース中に亡くなった方がいたと聞いて、びっくりです。スイムのときだったとか…
 16時5分に出航しました。佐渡がどんどん離れていきます。ありがとう、佐渡。来年また来ます。来年はAタイプにでたい。強くそう思いました。
佐渡をみていたデッキから客室に戻るとき、すでに私は「いてて、いてて」とロボットの動きに〔泣〕
Aタイプは今日の倍なんでしょ。やっぱり無理かも?